牧野伊三夫「牛窓の絵」 常設展
Makino Isao - Ushimado | 2025.09.13 - 10.12
牧野伊三夫さんとはじめて牛窓に訪れたのが、二年前の春だった。
私は、牛窓で伊三夫さんの「絵」とharuka nakamuraさんの「歌」を一つの画集にしたいと考え、二人に滞在制作をお願いした。牛窓中学校では作詞と作曲の授業を行い、伊三夫さんは初めて作詞をして「牛窓のうた」を書いた。制作の拠点にした御茶屋跡ではハルカさんと何度も即興で共作を繰り返し、毎日夕餉を共にして、夜が深くなるまで愉しく呑んだ。私が朝、目が覚めると伊三夫さんはいつも朝焼けの眩しい船着場でデッサンをしていた。うまく言葉にはできないが、その時間だけは唯一、伊三夫さんに話しかけることはなかった。そして、春、夏、秋、年をまたいで、春、秋と滞在制作を繰り返していった。
いつだっただろう。伊三夫さんは、絵には退屈な時間が必要だと話してくれた。友人たちが帰ってしまった牛窓で伊三夫さんは絵を描き続けた。心の満たされた状態は、もちろんこれ以上ない幸福な時間だが、一つの絵に仕上げるには同じぐらい空っぽな時間が必要なのかもしれない。
去年の秋、これで画集に向けて、最後の滞在だと思い、牛窓へ向かった。最後の日、陽が暮れるオリーブ園で描いたカンバスの絵を前にしてようやく、私と伊三夫さんの感じる牛窓での時間が重なるような衝動があった。牛窓での絵を画集にすることは私にとって何よりの楽しみだ。でも、画集ができてしまうと私たちの時間は終わってしまうのだろうか。そんなことを思い、私はもう一年、制作の延長をお願いした。二年前に作った「牛窓のうた」。卒業していく学生のために作ったはずの歌だったが、気がつくと、私たちが今、その歌の情景を追い求めている。

ハルカナカムラのピアノとの即興 / 2023 / 木炭

オリーブ畑 / 2024 / カンバスにアクリル / F8号


牧野伊三夫
1964年生まれ。画家。ドローイングやコラージュなどの平面作品のほか、音楽家との即興制作、湯町窯やアトリエキルンなどでの絵付けを行う。著書に『僕は、太陽をのむ』(港の人)、『かぼちゃを塩で煮る』(幻冬舎)、『画家のむだ歩き』(中央公論新社)、『アトリエ雑記』(本の雑誌社)、『牧野伊三夫イラストレーションの仕事と体験記1987〜2019』(誠文堂新光社)、絵本『十円玉の話』『塩男』(ともに、あかね書房)『へたな旅』(亜紀書房)、『のみ歩きノート』(筑摩書房)など。2022年度東京アートディレクターズクラブ原弘賞ほか受賞。美術同人誌『四月と十月』同人・発行管理人。北九州市情報誌『雲のうえ』編集委員。銭湯や酒場を訪ねるのが趣味。東京都在住。

牧野伊三夫「牛窓の絵」 常設展
Makino Isao - Ushimado | 2025.09.13 - 10.12
牧野伊三夫さんとはじめて牛窓に訪れたのが、二年前の春だった。
私は、牛窓で伊三夫さんの「絵」とharuka nakamuraさんの「歌」を一つの画集にしたいと考え、二人に滞在制作をお願いした。牛窓中学校では作詞と作曲の授業を行い、伊三夫さんは初めて作詞をして「牛窓のうた」を書いた。制作の拠点にした御茶屋跡ではハルカさんと何度も即興で共作を繰り返し、毎日夕餉を共にして、夜が深くなるまで愉しく呑んだ。私が朝、目が覚めると伊三夫さんはいつも朝焼けの眩しい船着場でデッサンをしていた。うまく言葉にはできないが、その時間だけは唯一、伊三夫さんに話しかけることはなかった。そして、春、夏、秋、年をまたいで、春、秋と滞在制作を繰り返していった。
いつだっただろう。伊三夫さんは、絵には退屈な時間が必要だと話してくれた。友人たちが帰ってしまった牛窓で伊三夫さんは絵を描き続けた。心の満たされた状態は、もちろんこれ以上ない幸福な時間だが、一つの絵に仕上げるには同じぐらい空っぽな時間が必要なのかもしれない。
去年の秋、これで画集に向けて、最後の滞在だと思い、牛窓へ向かった。最後の日、陽が暮れるオリーブ園で描いたカンバスの絵を前にしてようやく、私と伊三夫さんの感じる牛窓での時間が重なるような衝動があった。牛窓での絵を画集にすることは私にとって何よりの楽しみだ。でも、画集ができてしまうと私たちの時間は終わってしまうのだろうか。そんなことを思い、私はもう一年、制作の延長をお願いした。二年前に作った「牛窓のうた」。卒業していく学生のために作ったはずの歌だったが、気がつくと、私たちが今、その歌の情景を追い求めている。

ハルカナカムラのピアノとの即興 / 2023 / 木炭

オリーブ畑 / 2024 / カンバスにアクリル / F8号

牧野伊三夫
1964年生まれ。画家。ドローイングやコラージュなどの平面作品のほか、音楽家との即興制作、湯町窯やアトリエキルンなどでの絵付けを行う。著書に『僕は、太陽をのむ』(港の人)、『かぼちゃを塩で煮る』(幻冬舎)、『画家のむだ歩き』(中央公論新社)、『アトリエ雑記』(本の雑誌社)、『牧野伊三夫イラストレーションの仕事と体験記1987〜2019』(誠文堂新光社)、絵本『十円玉の話』『塩男』(ともに、あかね書房)『へたな旅』(亜紀書房)、『のみ歩きノート』(筑摩書房)など。2022年度東京アートディレクターズクラブ原弘賞ほか受賞。美術同人誌『四月と十月』同人・発行管理人。北九州市情報誌『雲のうえ』編集委員。銭湯や酒場を訪ねるのが趣味。東京都在住。
Schedule 2026
鈴木恵美
土絵
梅雨
牧野伊三夫と宮下香代
無分類
霜降
クロヌマタカトシ
彫刻
小雪
Recently
© 十六画廊|jūroku garō|16 Design Institute
Schedule 2026
鈴木恵美
土絵
牧野伊三夫と宮下香代
無分類
クロヌマタカトシ
彫刻
Recently
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